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■2008/02/29(金) 面白かった帯傑作選−2月 このエントリーを含むはてなブックマーク

 先月なかなか好評だったので、今月も買ったマンガの帯紹介をしてみます。

マルスのキス (PIANISSIMO COMICS)
マルスのキス:岸虎次郎


 「彼女の純潔は、私が守る―。」

 『マルスのキス』です。過保護な母親に育てられた反動から、年上の恋人と情事に耽る茶髪の少女・由佳里。両親の離婚を見て、過剰なほどの優等生であろうとする黒髪の少女・美希。大人しく、初心で、実は可愛らしい美希と接するうちに、彼女に惹かれていく由佳里。その由佳里の決意の言葉が、↑なのです。

es -エス- (メガストアコミックス)
es:ichi


 「いたいけな柔肌を 蹂躙する悦び…。」

 『es』から。お察しの通り、メガストアから出ているエロマンガです。エロマンガとして、しかも、ロリコン系エロマンガとしては、これ以上ないほどストレートなキャッチコピーです。はっきりいって、口に出しただけで逮捕は確実ですね。

まーぶるインスパイア 1 (1) (まんがタイムKRコミックス)
まーぶるインスパイア:むねきち


 「ゆるるん。」

 『まーぶるインスパイア』から。小学生と中学生の女の子たちがゆるい日常を過ごす、萌え四コマです。少女たちがディープなオンラインゲーマーでオタクだったりします。大股開きになったり、四つんばいになったり、明らかにエロを狙った絵も多いマンガです。

 このキャッチコピーは、ほとんど究極ですよね。よく見ると、上にごちゃごちゃ書いてあるんですが、まず目に入るのは「ゆるるん。」です。なんという、インパクト。「ゆるるん。」が何を表す擬音なのか、まるで分かりません。分かりませんが、思わず立ち止まってしまう、素晴らしい言葉です。

東京マーブルチョコレート―ハロー、グッバイ、ハロー。 (ワイドKC)
東京マーブルチョコレート:谷川史子


 「失恋しても、大丈夫。つぎの恋が、たぶんそこまで来てるから。」

 『東京マーブルチョコレート』から。プロダクションI.Gの制作した同名のアニメのコラボマンガです。アニメでは、千鶴と悠大の二人が恋に落ちる様子を、二人の視点から描いた作品です。マンガの方は、アニメの前の話で、千鶴と悠大の二人が失恋する話になっています。だから、「大丈夫」なんですね。

謎の彼女X 3 (3) (アフタヌーンKC)
謎の彼女X:植芝理一


 「抱きしめた その次は?」

 『謎の彼女X』3巻です。このコピーは、メチャクチャ良いです。主人公は、何の変哲もない男子高校生。彼女のことが好きで好きで、ついついえっちなことを考えているわけです。ヒロインが変わってます。常に片目が隠れていて、クラスでは誰とも話しません。主人公は彼女のヨダレを舐めることで、彼女の考えていることを体感することができます。

 この不思議なカップルの日常を描いた、ちょっと変わったラブコメディが『謎の彼女X』なわけです。で、前巻である2巻で、主人公はついに彼女を抱きしめることに成功しました。それを受けての、帯なわけです。「抱きしめた」「その次は?」。なんと心躍らされるコピーか。

 というわけで、今月の帯紹介は以上です。「この帯も面白かった」なんて人がいましたら、コメントかトラックバックを送ってくれると嬉しいです。俺が。
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■2008/02/28(木) 着衣エロのキワミ『夏蟲』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 明日・2月29日に月吉ヒロキ先生の最新作『独蛾』が発売されます。というわけで、前作『夏蟲』の紹介をして、月吉先生のおさらいをしましょう。

 まず、『夏蟲』は電車の調教モノです。電車の中で偶然近くに立つことになった男と少女。痴漢の大好きな男は少女の弱々しげな顔つきを見て、ニヤリとします。男は優しげな言葉を選びながら、少女の体に触れていきます。痴漢の見立てた通り、気の弱い少女は困った顔はするものの、抵抗できません。その日から、電車で男が少女に触れることが日課となってしまうのです。

 ここでの少女の描き方が、月吉先生は抜群に上手いんですね。まず、「びくん」や「かあああ」など、擬音の使い方が上手い。それに、男の指の動きに反応した、少女の恥らう表情は素晴らしいの一語に尽きます。でも、月吉先生のリビドーはそれだけではないんです。

 最後の最後で、少女の心が陥落し、男の望むようなえっちな女の子になります。それはエロマンガのお約束なんですが、『夏蟲』のすごいところは、そこに至るまでの過程です。なんと、エロマンガで、調教ものでありながら、少女の素肌の見えるシーンが最期まで出てこないのです。

 普通のエロマンガというと、おっぱいやらアソコやらが丸写しになるものです。男のリビドーを全開にすれば、当然そうなります。ところが、『夏蟲』ではおっぱいもアソコも描かれません。ただ、男が制服越しやパンツ越しに触れるだけなのです。男の手が下着の中に忍ぶシーンでも、その中身が描かれることはありません。

 そう、月吉先生のリビドーは明らかに、少女の着ている制服そのものに向いています。少女のセーラー服やスカート、そして、黒いタイツと革靴。特に、黒タイツと革靴に対する執着はすさまじいものがあります。ちょっと現物を見てみると、それが分かると思います。

夏蟲 (TENMA COMICS LO)
夏蟲:月吉ヒロキ


 この腿のてかり具合。

夏蟲 (TENMA COMICS LO)
夏蟲:月吉ヒロキ


 このアキレス腱。

夏蟲 (TENMA COMICS LO)
夏蟲:月吉ヒロキ


 このヒザの曲がり方。

 おっぱいだの、アソコだのといった性的な部分ではないにも関わらず、このエロさ。こんな絵が描けるのは、そこにリビドーがあるからとしか思えません。ようするに、月吉ヒロキ先生は着衣エロの天才なわけですよ。
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■2008/02/27(水) 百合と現実の境界線を抜ける『マーメイドライン』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 金田一蓮十郎先生の新作『マーメイドライン』読みました。軽妙な中に、重いテーマを仕込む作風は相変わらずですね。デビュー作『ジャングルはいつもハレのちグゥ』の頃から、既にこの二つの特徴は健在でしたからね。

 『マーメイドライン』の収録作の中では、「ゆかりとまゆこ」という話がお気に入りです。彼氏との関係に満足しつつも、違和感のあるゆかり。上司との不倫で傷ついたまゆこ。「男ってめんどくさい」と結論した二人で、軽い気持ちで付き合ってみるのです。まゆこが新しい彼氏を作ることで、二人の関係はすぐに終わります。寂しさを覚えるゆかりですが、少しの間でもドキドキを感じられたのなら、それも幸せと言えるのはないか。そこで、物語は終わります。

マーメイドライン (IDコミックス 百合姫コミックス) (IDコミックス 百合姫コミックス)
マーメイドライン:金田一蓮十郎


 「ゆかりとまゆこ」で面白いのは、ゆかりとまゆこがセックスすることがなく、それが気楽さと楽しさを生み出しているというシーンです。同性同士だからセックスをする必要がないという論理は、BLでも百合でもあまり見ることがないように思います。もちろん、セックスのないBLも百合も多いのですが、セックスのなさがメリットであるとする話は多くないんじゃないでしょうか。

マーメイドライン (IDコミックス 百合姫コミックス) (IDコミックス 百合姫コミックス)    マーメイドライン (IDコミックス 百合姫コミックス) (IDコミックス 百合姫コミックス)
マーメイドライン:金田一蓮十郎


 世間的には、「あゆみとあいか」の方が話題になっているようなので、少し寂しいです。こちらは性同一性障害のカップルの話です。あゆみは普通の女の子。ある日彼氏・竜之介(左)に別れを告げられます。そうして、しばらく経った日出会ったのが変身後・あいか(右)です。

 女の子になったことで住むところにも難儀している元・彼氏を見かねたあゆみは同居を申し出ます。ところが、あいかは同居の提案を断ります。その理由は「女になって、女としてあゆみのことが好きだから」というもの。男性から女性になった上で、女性であるあゆみが好きだというのです。

 で、この展開が百合の好きな人たちの間では話題になったそうです。元男の女が女を好きになることは百合であるのかないのか、と。ここが百合というファンタジーとレズビアンという現実の難しいところなのでしょうね。

 世間的には、性転換や同性愛などは一緒くたに倒錯した性だと思われています。一風変わったセックスが楽しみたいから、女装や男装、男同士や女同士でセックスするのだ、と。そして、実際に変わったセックスが目的の人も当然ながらいます。ようするに、変わったセックスをするのが趣味の人ですね。

 ところが、そうでない人たちもいます。どうしても男の人にしか興味が湧かない男性やその逆の人。また、自分自身が男性や女性であることに違和感を覚えて、それに耐え切れない人です。最近では、こういった人たちは趣味ではなくて、病気だと言われちゃうようですね。

 もっと、ややこしいことを言いましょう。まず、女性になりたいから女装する男の人というのがいます。単純に可愛いから女装したいとか、自分が女性だと信じているから女装する人ですね。でも、そうじゃない人もいます。自分の股間についているブツが嫌いだとか、男性に恐怖心があるとかで、男性であることから逃れるために女装する人です。

 と、まあ、性のお話は結構色々ありまして、複雑怪奇なんですね。うちのブログの閲覧者さんだって、人には言えない性癖の一つや二つはあると思います。男性や女性にまつわる話がいっぱいあるのは、当然といえば当然なんですね。

 だから、レズビアンの世界を描こうとすれば、「あゆみとあいか」は語られてしかるべき話です。むしろ、こういった現実の中に照らし合わせて考えれば、十分すぎるほどにファンタジー要素の含まれたお話なんです。議論の余地もないですね。

 ただ、百合が好きな人が「あゆみとあいか」にショックを受ける気持ちも分からなくはないです。百合ファンというのは、女性同士の交情に清らかな思いを抱いています。例え、そこにセックスシーンが含まれていたとしても、なんとなく清楚で綺麗というイメージがあるんですね。

 これは男性を汚く、粗野なものと考えるイメージの裏返しですね。男性が汚いほど、男性の含まれない百合に美しいものを期待しているんです。だから、例え、心が女性であっても、体が男のあいかに拒否反応を示すのも、これまた当然ではあります。

 そうそう、最後に。上に書いた複雑な性の事情に興味のある方は伏見憲明さんの『クィア入門』を読んでみるといいですよ。伏見さんは男性の好きな男性、いわゆるゲイの人です。彼が様々な性の方と対談し、議論している本なので、楽しいですよ。楽しいなんて書くと不謹慎かもしれませんが、興味本位でも知らないよりマシだと思いますし。
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■2008/02/26(火) 『かわいいあなた』とメンタリティの悲劇 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『かわいいあなた』を読みました。百合姫コミックスの作品で、百合とは女性同士の交情を描いた作品のことです。SFが科学の話で、BLが男性同士の恋愛であるのと同じで、百合は女性同士の交情の作品です。恋愛ではなく、恋慕に留まる作品も多いです。

 『かわいいあなた』は短編集なのですが、表題作にもなっている「かわいいあなた」という収録作について書いてみます。そして、冒頭に繋がるのですが、この「かわいいあなた」というマンガはメンタリティの悲劇なのです。

 ここに出てくる主人公は二人。背も高く、凛々しい顔つきをしたまりあ。ふわふわの髪をした可愛らしいあかねです。まりあはいつもスマートでカッコイイように振舞っていますが、内心では自身がまるで男の子のように見えることに傷ついています。この傷こそが悲劇なのです。

かわいいあなた (IDコミックス 百合姫コミックス)
かわいいあなた:乙ひより


 上の少女がまりあです。まりあが廊下を歩いていると、見知らぬ上級生に「おかまみたい」と笑われてしまいます。人のいない静かな図書館で一息ついた彼女は、涙が止められなくなります。そこで、泣いているまりあに気が付いたあかねが声をかけた後のシーンです。

 ここで、まりあは「お姫さまがいる」と心の中で呟きます。お姫さまとはあかねのことです。背も小さく、可愛らしいあかねは、まるでお姫さまのように見えてしまったのです。この見知らぬ女性をお姫さまと結び付けてしまうところに悲劇があるのです。

 見ず知らずの女性を、可愛らしい外見からだけ判断して、「お姫さま」と考える。これは見ず知らずの女性を、男らしい外見から「おかま」と評するのと全く同じです。もちろん、その内容が失礼であるかどうか、口にするかどうか、という違いはあります。しかし、その根底に流れるメンタリティは変わらないのです。

 つまり、まりあの心の傷とは何者にもよらないのです。赤の他人に言われれば、当然傷つきます。しかし、そこに誰もいなくても、まりあは自分で自分を傷つけてしまうのです。彼女が彼女であるだけで、常に悲しいのです。

 この一コマにまりあのメンタリティが詰まっています。極端にいえば、このコマを見るだけでマンガの内容全てを把握することすらできます。そういった象徴的な描き方ができるのは、すごいですよね。
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■2008/02/25(月) マンガの枠外について このエントリーを含むはてなブックマーク

 マンガはコマで成り立っている。コマの内部に図像や台詞が描かれ、コマの外部は白紙が基本になっている。この白紙は意図されたものではなく、手が付けられていない状態のものである。作者からも読者からも認識されない空間である。

 マンガはコマという枠を作ることによって、読み取りやすくなっている。作者は意味のある空間をコマによって切り取る。だから、読者はコマの内にだけ視点を集中させることで、より楽にマンガの意味を読み取るのである。

 しかし、コマの枠外を使用されることもある。この例外について書いてみる。文字だけで分かりづらい点は、ヘタクソながら筆者の絵によって代用してみる。

 まず、コマの内部に収まるべき図像や台詞が枠外に飛び出す場合がある。例えば、キャラクターや台詞が複数のコマにまたがって描かれる場合が、そうだ。これはキャラクターを大きく目立たせる意図や使える空間を広げることで大量の台詞を読みやすくする効果がある。

 また、枠外に色を塗って、意味を持たせる場合もある。例えば、枠外をベタで黒く塗りつぶす手法である。枠外を黒くすることによって、コマ内の時間が夜であることを示すのである。似た手法に、枠外をスクリーントーンで埋め、コマ内を夢の世界と認識させる手法もある。

 枠外に文字が書かれることもある。これは文字を書く主体が誰かという点にしぼることで、大きく三種に分類できる。作者、キャラクター、そして神の視点である。

 まず、作者のケースについて書こう。例えば、萩原一至『バスタード』の枠外には車やバイクについて書かれている場合がある。これらはコマ内の事情とは全く無関係に、作者の近況が書かれているのである。ゆえに、主体は作者本人となる。

 また、作者が枠外に注を入れる場合もある。例えば、皆川亮二『D-LIVE』では多くの注がつけられていた。このマンガはバイクや戦闘機などあらゆる乗り物を使いこなす主人公の物語であるため、読者が知るべき情報が多いためである。

 主体がキャラクターである場合もある。木村紺『神戸在住』では、主人公の心の声が枠外に書かれることがしばしばある。特徴的なのは、コマ内の時間軸と枠外の時間軸が必ずしも一致していない点である。枠外は一歩進んだ時間軸におり、回想しているかのような手法が取られている。

 最後の一つが、神の視点である。同じく木村紺『巨娘』も枠外が大いに使用されている。キャラクターのプロフィールやエピソードについて枠外が物語る形式である。この視点は作者と同義であるようにも見えるが、そこに作者本人の思考は介在しない。あくまでも、物語の一部なのである。

 上記のようなケース以外にも、枠外を活用する例はある。手塚治虫のマンガでは、しばしばコマが打ち壊される。あるコマをキャラクターが破り、別のコマに移動することもある。キャラクターがコマを意識し、それを改変することができるのである。

 まとめると、枠外を使用するマンガとしないマンガは、本質的な部分で異なっている。枠外を活用しないマンガにおいて、枠外とは意識にも上らず、無視されるものである。枠外を使用するマンガにおいては、枠外とは意識の対象である。仮に空白であったとしても、可能性がある限り意識せざるをえないのである。
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■2008/02/24(日) 『チノミ』が面白すぎる件。 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『チノミ』が面白すぎるのである。謎と伏線の多いストーリー、ド迫力の絵、一流のユーモアがある。並べてみると陳腐に思えるだろうけれど、実際にそうなのだ。ものすごく面白い。

 チノミというのは、「血飲み」である。主人公の一家は、なぜか毎週日曜日に血の夕食を取る。血のハンバーグや血のチャーハン、血の味噌汁などである。主人公の物心ついた時には、それが当然だった。それは両親や祖父の代から続いているルールなのである。

 主人公は高校卒業後、フリーターをしている。友達や仲間から夕飯を誘われても、日曜日だけは決して誘いを受けない。主人公自身、なぜそこまでしなければいいのか、全く分かっていない。分かっていないが、それを破らない。それくらいに徹底したルールなのである。

 彼の家には、もう一つ、ルールがある。それは血の食事を取っていることは、決して誰にも喋ってはいけない、ということである。もし、誰かに喋ったら、その時は「クロセビロのおじさん」がやってくる。クロセビロが誰なのか、それすらも分からないが、ともかくも喋ってはいけない。

チノミ 1 (1) (アフタヌーンKC)
チノミ:吉永龍太


 『チノミ』の面白さの一つは、ド迫力の絵である。上は主人公の先輩が悪漢と戦っている場面なのだが、彼の感じる恐ろしさが細部までこだわって描かれているのが分かる。ベタといえばベタな絵柄なのだが、メチャクチャにインパクトがあり、マンガとしてこれ以上に迫力のあるものは描けないのではないか、とすら思う。

チノミ 1 (1) (アフタヌーンKC)
チノミ:吉永龍太


 『チノミ』のもう一つの面白さは、そのユーモアである。上は主人公の先輩が悪漢を殺してしまった後の場面である。高校を中退し、自分のことを頭が悪いと称する男である。その男が必死になって、死体の処置を考えている。

 「通報する」、「バックれる」、「自首する」などの下に、「ブタに乗って逃げる」という選択肢がある。これに対する反論は「ブタがない」である。これは混乱した男がとっさに描いた空想であると冷静に判断することもできるが、同時に作者一流のユーモアでもある。

 謎に満ち、迫力に溢れ、ユーモアの光る『チノミ』。特に『ジョジョ』の一部や二部、三部の中盤(オインゴボインゴくらい)までが好きな人は買いである。
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■2008/02/23(土) 安心するマンガ『くらしのいずみ』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 谷川史子さんの新刊が出ました。『くらしのいずみ』です。これは恋愛マンガという定義になると思うのですが、そこに描かれているテーマは「好き」とか「嫌い」ではないんです。どちらかといえば、「安心する」とか「気楽に生きる」というものなんです。

 谷川史子さんのすごいところは、その心理描写です。ほとんど言葉を使わずに、情景を描くことで読み手に心理を伝えてしまうのです。特に俺が好きな矢野家のエピソードを使って、それを説明してみます。

くらしのいずみ (ヤングキングコミックス)
くらしのいずみ:谷川史子


 例えば、こちら。お骨を抱えて、キョロキョロと見回す主人公。シュートカットの女性が机の前に正座し、次のコマでは彼女の代わりにお骨が置かれています。これだけで、男性の心境や彼らの関係性、何が起きているのかが全て説明できているんです。

 おそらく、男性は葬式から帰ってきたばかりのところです。胸にお骨を抱えているところから、大事な人が死んでしまったようです。落ち着かなげにしているのは、自分しかいない部屋が普段よりも広く見えているからでしょう。

 ショートカットの女性が大きな座布団に、ちょこんと座っています。こちらを向いて微笑んでいるのは、その先に男性がいるからでしょう。言葉にすると、「おかえり」というところでしょうか。たぶん、二人は恋人かそれに近い関係なのでしょう。

 そして、3コマ目で、その女性の位置がお骨に入れ替わっています。男性が胸に抱えていたお骨は、2コマ目の女性だったことが分かるのです。人がお骨と入れ替わったコマであるにも関わらず、どこか明るく、楽しげです。

くらしのいずみ (ヤングキングコミックス)
くらしのいずみ:谷川史子


 倒れた花瓶、投げ出された花とこぼれた水です。おそらく、彼女は突然に倒れるかして、花瓶も一緒に投げ出されたのです。彼女が最後に触ったものが、これらなのだそうです。男性は花瓶をそのままにし、水を拭くことすらしていません。

 男性は、まだ彼女が死んだことを受け入れていないのです。もちろん、だからといって、彼女が生きていると信じているわけでもありません。だから、花瓶の花は捨てられることもなく、元に戻されることもありません。

 これによって、一番最初のコマで、男性がほとんど悲しむ様子もなく、ただ戸惑っていた理由も分かります。彼は女性が死んでしまったという実感が持てていないのです。だから、お骨を彼女に重ね合わせ、それまでの日常を続けようとしていたのです。

 女性は回想シーンにしか出てきません。物語は全てが終わってしまった後の話になっています。普通であれば、回想シーンにだけでも登場するのであれば、生きているような錯覚を得られるのですが、この作品は違います。回想にしか出てこられないという事実が、切なく、やるせないのです。
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■2008/02/22(金) 和やか系四コマ『ゆるユルにゃー』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『ゆるユルにゃー』表紙買いしてしまいました。予想したものとはちょっと違って、期待した以上に面白いマンガでした。

ゆるユルにゃー!! 1 (1) (リュウコミックス)
ゆるユルにゃー!!:小石川ふに


 ↑が主人公のヨーク。小さな子猫が擬人化した姿をしています。そっくりの姉妹八人と遊んでいたら、鳩にくわえられて、飛ばされます。気が付いたら、見ず知らずの土地で迷子になっていたのでした。そんな風でもパニックを起こさず、のんきに寝てしまう楽天家。ただし、怖いことがあるとすぐにもらしてしまう、怖がりでもあります。

 基本的には、擬人化された猫たちとヨークが楽しく暮らすエピソードになっています。ところが、そこに時々不思議な生き物が登場するんです。それが不思議でありながら、どこが間が抜けていて、可愛いのです。

ゆるユルにゃー!! 1 (1) (リュウコミックス)
ゆるユルにゃー!!:小石川ふに


 例えば、一見すると美男子のおサムライさんなんですが、よくよく見るとチョンマゲが猫なのです。この人は、ごくごく自然に、頭に猫を乗せているわけです。しかも、フキダシをよく見ると、喋っているのはおサムライさんではありません。猫なのです。

ゆるユルにゃー!! 1 (1) (リュウコミックス)
ゆるユルにゃー!!:小石川ふに


 こちらニャンボ。とにかくでかい何か、です。山の神さまと呼ばれることもあります。これだけ身長差があると恐ろしげに見えそうなものですが、目や口、眉なんかが間抜けで愛らしいです。どこか、ちゅるやさんぽくもあります。中身も同じくらいのんびりとした、優しい神さまです。

 『ゆるユルにゃー』は萌え四コマに位置づけられるマンガなんだと思います。表紙からして可愛らしさが溢れていますし、登場するキャラクターは誰も彼も愛らしいです。ただ、『ゆるユルにゃー』は萌えがメインなのではなくて、その和やかな雰囲気が一番価値がある。そんな四コマです。例えるなら、NHKの5分間アニメみたいな、そんな作品ですね。
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■2008/02/21(木) 心に激しい揺れを観測させるマンガ『まちまち』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 かがみふみお『まちまち』を読み直してたんですが、やっぱり、この作品は良いですね。前作『ちまちま』もそうだったんですが、読んでるこっちが身悶えしてしまうほど初々しいんですよ。

 思春期の若者って、ものすごく敏感なんです。どんな些細なことでも妄想します。ほんのちょっとのことで慌てたり、落ち込んだり、喜んだりもできます。あらゆることに気が付いて、どんなことにでも反応ができるんです。

 『まちまち』は、ほとんど全く起伏のないお話なんです。普通に高校に行って、お喋りして、マックに寄って。ただ、それだけしか起きないんです。でも、その何の変哲もない日常が、ものすごく細かに描かれています。平凡な日常が、とてつもなくエキサイティングなんです。

まちまち 1 (1) (アクションコミックス)
まちまち:かがみふみを


 雨の日の相合傘のシーン。背の大きな女子と背の小さい男子のカップルです。「傘は男が持つもの」と必死に持っていますが、傘の位置を背の高い女子に合わせているので、腕が震えだしています。女の子は、必死になっている男子に気づいて、感動しています。この見落としがちな、些細なエピソードを拾い上げるから、かがみふみお先生はすごいんですよね。

まちまち 1 (1) (アクションコミックス)
まちまち:かがみふみを


 これは好き合ったカップルが、マックに寄ったところ。お互いが好きで、一緒にいたくて、いるだけで幸せです。でも、話したいことはない。思いつかないのです。楽しいけど気まずい時間。マンガを読んでいる俺が、叫びだしたくなります。

まちまち 1 (1) (アクションコミックス)
まちまち:かがみふみを


 マックのシーンの後、ギクシャクしたまま時間が過ぎ、落ち込んだ二人。「このままではいけない」と張り切った男子が、「また明日」と別れ際に言います。それだけで、女子は満開の笑顔なわけです。「好き」とか、愛情を示す言葉ですらない。「また明日」。これだけで二人は幸せになれるのです。

 『まちまち』は物語は全く起伏がないんですけど、キャラクターの心が震度6くらいで、常に津波状態なんです。その心理描写がとてつもなく上手い、良い作品なんです。
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■2008/02/20(水) 人間でないものを使って人間を描き出す技法(『巨娘』) このエントリーを含むはてなブックマーク

 『神戸在住』に触発されて、もう何十週目だか分からないですが、『巨娘』読んでました。今日の記事はマンガの話ではなくて、マンガ技法の話です。

 マンガというのは、フィクションなんですね。どんなに精巧でリアルに描かれているように見えるキャラクターでも、それはマンガの約束に従って描かれているんです。例えば、『ジョジョ』は劇画調であり、リアルな描写と思われがちな反面、明らかに人体に無理のあるポーズを取ってたりします。フィクションとリアルが入り混じったもの、それがマンガです。

巨娘 1 (1) (アフタヌーンKC)
巨娘:木村紺


 上の女性は、サチさん。大学時代、少々ナルシストだった彼氏を大学教授(♂)に取られた苦い過去があります。さらに、就職した証券会社で上司のカンガルー(オーストラリア産)にストーキングされ、退職を余儀なくされています。居酒屋の社員になるものの、今度は客に一目ぼれされた挙句、暴行されかけています。サチという名前ながら、幸の薄い女性です。

 そのサチさんにも、とうとう春が訪れようとしています。お相手は居酒屋の副店長タケル。板前あがりで料理の腕に優れ、居酒屋チェーンは彼の力量にかかっている部分があります。顔もなかなか優れた顔面をしておりまして、性格も一本気で良いのです。非の打ち所がない、というヤツです。ただし、脇役。

 上のシーンは、サチさんがタケルに食事に誘われたところです。憧れの男性から夕食を誘われ、迷ったそぶりのサチさん。その目が泳いでいるのが、上の画像を見ると、よく分かります。そして、そこが今日のポイントであり、書きたいことです。

 人間は、実は目は動きません。もちろん、まぶたが開いたり閉じたりはしますし、目玉がぐりぐりと動くこともあります。しかし、目の位置は変わりません。生きていれば当然のことですが、人間は目を動かすことができないのです。

 だから、この絵はおかしいのです。黒目が横にそれることはあるとしても、目の位置が右に寄ったりすることはありません。人体の構造上、それは不可能なんです。ただし、これはマンガです。黒目を動かすよりも目を動かす方が、インパクトは強く、表現として分かりやすいです。

 つまり、ここはキャラの心情をより正確に分かりやすく表現するために、登場人物が人体ではなくキャラクターとして描かれた瞬間なのです。そして、これが人間でないものを使って人間を描く、マンガにしかできない表現の一つであると、俺は考えています。まあ、その話はいつか。
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■2008/02/19(火) 読者とマンガの距離を開ける技法(『内向エロス』) このエントリーを含むはてなブックマーク

 先日陽気婢先生の心理描写について触れました。その時は書かなかったのですが、陽気婢先生の素晴らしさは心理描写だけではありません。特に、もう一つ俺が個人的に素晴らしいと思っているものがありまして、それ演出技法です。

内向エロス 4 (4) (ワニマガジンコミックス)
内向エロス:陽気婢


 例えば、これです。画像中央にいる女性は、高校の教師をしています。教え子の少年に告白されて、将来を考えているところです。なかなか可愛らしく、素直で賢い少年です。彼女が少年と同世代であれば、すぐに返事をしたかもしれません。

 しかし、はっきりと描写されてはいませんが、おそらく彼女は少年と十以上も歳が離れています。それに、高校の教師と教え子が恋仲になるというのは誉められた話ではありません。むしろ、倫理的に問題があるほどです。

 また、思春期の少年が年上の女性に憧れを抱くことは、よくある話です。そして、それが長続きしないというのも、よくあります。彼女が本気になったところで、結局のところ上手くはいかず、別れることになるかもしれません。無理をしても、互いに傷がつくかもしれないのです。

 ところが、男性から告白を受けたことのない彼女にとって、教え子の少年にしろ想いを寄せられるというのは、嬉しいことです。もちろん、障害はたくさんありますし、上手くいかない可能性の方が高いです。でも、もし上手くいったら、年下の可愛い少年というのは非常に魅力的です。

 おおよそ、こういったことを考えさせるシーンなわけです。重要なことは、上の心理ではありません。見るべきところは、画像の左右の歪みです。まるで、カメラに映し出されているかのような、湾曲した背景です。

 カメラなのです。人間が日常で目にする範囲の中で、湾曲した像は鏡とカメラしかありません。だから、読者はこのコマを見て、カメラを意識します。マンガとは、読者がどこにいるかということを考えられずに描かれています。読者は作者に成りきってもいいし、コマの中に存在してもいい。外から眺めていてもいいのです。

 ところが、カメラを意識することによって、読者は自然と自分自身をコマの外に置くことになります。そして、彼女の姿や考えていることを外部から客観的に見ざるを得なくなるのです。このコマによって、読者は彼女への感情移入をストップし、内面の分からないキャラクターとして見るようになります。

 このキャラクターと読者を引き離す演出が、この物語の後々に影響を与えます。彼女は少年に対して突飛な行動に出ますが、それを読者に納得させません。感情移入することによって彼女の行動を正当化させず、あくまでも彼女個人を客観的に見た感想だけを抱かざるを得なくするのです。

 コマ一つで、マンガと読者の距離を調節してしまう。そんなことを簡単にしてしまうのです。だから、陽気婢先生はすごい。
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■2008/02/18(月) 健康的にえっちで、毛とおっぱいのエロマンガ『思春期は発情期』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 コアマガジンのブロガー募集に応募したら、エロマンガが二冊届きました。ラッキー。というわけで、早速義務を果たすべく、レビューしたいと思います。規約上、中の画像が使えないので、筆力で頑張ります。






 一冊目は↑。甚六『思春期は発情期』です。この作品は素晴らしいです。明るく健全にえっちで、毛とおっぱいに並々ならぬ情熱が傾けられた作品です。

■魅力的なキャラ

 『思春期は発情期』は和姦です。好き合った男子と女子が結ばれて、ラブラブする。めちゃくちゃベタなエロマンガです。誰もが一番最初に思いつきますし、簡単に描けそうなお話です。でも、このベタなエロマンガ、実は一番難しいのです。

 だって、考えてみて下さい。陵辱や鬼畜、レイプといったエロマンガってインパクトがありますよね。例えば、監禁とか調教とかって、もうシチュエーションだけでエロいじゃないですか。もう、その設定だけで抜ける。話やエロが多少下手でも、読者が脳内補完できちゃうんですよ。

 でも、ラブラブなエロマンガは、できません。ベタだからこそ、作者のキャラに対する愛情がモロに出てしまいます。作者がほのぼのでラブラブなキャラを描いたつもりでも、どうしても可愛いとは思えないってことだってありえるわけです。エロさは体の曲線で表現できますが、可愛さは表情や仕草なんかの描写が必要になってくるんです。そういうのはキャラに対する愛情がなければ、描けないんですよ。

 そして、その可愛さが『思春期は発情期』には、あるわけです。普段は地味で大人しく、純情な女の子がいます。その娘が好きな人の前ではちょっと大胆になり、可愛くなるのです。そして、男子に対する愛情によって、どんどんえっちになってしまう。こういうベタなキャラ設定が、作者の甚六さんの手で描かれると、めちゃくちゃ可愛いくなるんですよ。

 エロマンガって、基本的に淫靡なんです。エロければエロいほど、後ろ暗さが増す。例えば、EB110SSさんのエロマンガなんて、まさに後ろ暗さがあって、それが物語の快感を引き上げています。背徳感と比例してエロくなっていくんですね。

 ところが、『思春期は発情期』は違います。エロさが健康的なんです。健康的なエロで分かりやすい例は、吉崎観音さんですね。『ケロロ軍曹』読むと分かると思うんですが、観音さんのキャラはおっぱいボーンで、パンツ見せたりしてるんですけど、不思議と後ろ暗さがないんです。お子様に大人気になるくらいに、ものすごく明るくて健康的なんです。

 『思春期は発情期』のエロは、これにかなり近いです。校舎内で人知れずえっちとか、教え子と教師が恋仲になるなんていう話もあるんですけど、そこに後ろ暗さが全くないのです。そこが素晴らしいと思うんですね。

■リアルな毛描写

 毛って、普通はおざなりに描かれてしまうものなんですね。何故かといえば、そこまでしっかりと見る人間がいないからです。毛フェチの読者が少ないがゆえに、毛フェチの作画も少ないのですよ。ちなみに、エロマンガで毛といったら、それはもちろん陰毛です。

 ところが、このマンガは違います。『思春期は発情期』の毛描写は明らかに違います。これは俺の勘ですが、顔やおっぱいと同じくらいの労力が、この毛には使われています。このマンガの毛はリアルでありながら、ファンタジーでもあるのです。

 まず、登場する少女たちは女子高生なんです。女子高生にもなれば毛も生えます。生えますどころか、ボウボウです。うちの姉貴がよく裸で家を歩いてましたが、ボウボウでした。この毛が真ん中に集まって盛り上がる様が、非常にリアルなんですね。

 ところで、陰毛が生えれば、ケツ毛だって生えるわけです。うちの姉貴が毛深かっただけかも分かりませんが。しかし、『思春期は発情期』の少女たちにケツ毛は生えておりません。つまり、陰毛はあえて描いておきながら、ケツ毛を描かないという事実が、作者が毛フェチであり、美意識を持って毛を描いている証明になるのです。

 毛フェチの描く陰毛というのは、やはり一味違います。それはただの毛でありながら、毛そのものがエロいんです。真ん中に寄って、盛り上がる様がリアルです。しかも、マンガらしい可愛い顔にリアルな毛が描かれることで、キャラに実在感が増します。フィクションでありながら、実在感のある女の子なんて、可愛いに決まってるじゃないですか。

■圧倒的な質量のおっぱい

 そして、『思春期と発情期』で最も強調されている部分。それがおっぱいです。僕は貧乳派であり、でかいおっぱいなんて飾り以下だと思っている人間です。が、このマンガのおっぱいは凄まじいんですよ。貧乳派の俺ですら、ちょっと触ってみたい。いや、握り込んでみたいと思ってしまったくらいです。

 貧乳派の俺にはおっぱいを語る語彙なんてないわけですが、なんというか、めちゃくちゃに柔らかそうなんですね。手を当てたら、そのままたゆんたゆんと揺れてしまう。そのくらいに柔らかそうなんです。それだけでなく、確実に弾力もあるんです。揉めば揉んだだけ、抵抗があり、弾力が伝わってくる。そんな魅惑の物体、それが『思春期は発情期』におけるおっぱいなんですよ。

■健康的にえっちで、毛とおっぱいのエロマンガ

 そういうわけで、冒頭にも書いた通り、明るくて健康的にえっちなエロマンガです。毛の描写とおっぱいにものすごいエネルギーが使われてますが、それらに興味のない人にでも間違いなくオススメできる一冊です。






 二冊目は↑。『言葉だけじゃたりない』です。『思春期は発情期』のレビューに比べてあからさまに文章量が少ないですけど、そこは斟酌して下さい。

 絵柄は、いわゆる同人絵です。体の大きさや目のバランス、髪の描き方なんかが見事に確立しています。同人絵は人間という実物を元に構成されていないので、バランスが崩れてしまうことも多く、奇妙な姿になりがちです。『言葉だけじゃたりない』は全編に渡って絵柄が完成していて、崩れることもありません。そこはすごいです。

 ストーリーも平和なものが多く、キャラも不快感を抱かせるようなものもありません。『思春期は発情期』よりは物語性を重視した作りになっているので、メリハリというか起伏もしっかりあります。おそらく、誰が読んでもそれなりに満足するはずです。
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■2008/02/17(日) 絶望と暮らしていく『土星マンション』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『土星マンション』はいいですね。何度読んでも、いいです。ものすごく絶望的な世界なんですが、不思議なことに安心感があるんです。

 主人公ミツは窓拭き職人です。地球の周りをコロニーが回っているのですが、宇宙にもチリやゴミなんかが飛んでいます。窓拭き職人はコロニーに飛んできて、窓にくっついたチリを払って綺麗にし、ゴミで傷ついた外装を修理する仕事です。

 宇宙は圧倒的に暗い世界です。大気がありませんから、光が反射することがないのです。我々が住んでいる地球には光が散乱していますけども、宇宙空間では光は当たった場所にしか見えないのです。窓拭き職人の世界は圧倒的に暗闇です。

 コロニーは上層や中層、下層に分かれています。お察しの通り、上層にはエリートが住み、下層には貧民が住んでいます。もちろん、それらは生まれ付いての身分というもので決められています。差別は余裕との戦いです。余裕のない世界では、差別は存在し続けます。

 窓拭き職人であるミツは下層の住民です。仕事をしていれば、その日を生きていくことはできます。ただし、それだけです。生まれ付いて手に入る物資は限られており、一生涯決められた仕事を続けていくことしかできません。自由がないのです。

 おそろしいほど孤独な宇宙空間で日々仕事をこなし、百年前や今現在の地球のどこかのように自由のない世界で生きる。それが窓拭き職人のミツです。一見すると見落としがちなのですが、まるで希望というものが存在しない作品です。

土星マンション 1 (1) (IKKI COMICS)
土星マンション:岩岡ヒサエ


 ところが、『土星マンション』には温かみがあります。上の画像は、下層の住宅街を歩くミツの姿です。下層は電気の節約ということなのか、空が暗闇に包まれています。家の中だけが、明るく照っています。これは俺だけなのかもしれません。

 俺は小さなミツを左右の建物に挟まれて、歩いているミツの姿に安心感を覚えます。中央に伸びた暗闇に温かみを感じるのです。大きな建物は普通威圧感があり、暗闇は恐ろしさを演出します。しかし、こと岩岡ヒサエさんの作品では、建物や暗闇が安心の象徴になっているのです。

土星マンション 1 (1) (IKKI COMICS)
土星マンション:岩岡ヒサエ


 また、シビアな物語をフォローするかのように施された、ユーモアもあります。これは新人であるミツが大ベテランの仁にあいさつをする場面です。仁は顔をそらして逃げますが、ミツがそれを追って移動しています。笑える、楽しいというのとは少し違って、これも読者を安心させる演出だと思うのです。

 『土星マンション』は不思議な話です。この世界は、孤独で絶望的なものになっています。どうあがいても、ただ生きていくことしかできない。それが精一杯の世界です。しかし、その中で生きる人々には強い安心感があります。絶望に対して希望を持ち出すのではなく、絶望と一緒に暮らしていく。そういう作品なのです。
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■2008/02/16(土) 女装少年の心の綾を描き出す『内向エロス』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『内向エロス』を読み返していたんですが、陽気婢先生は天才すぎますね。思春期の少年少女を描き出すのに最適なか細い線、日常感覚を忘れずにファンタジーを演出するストーリーなど、良いところはたくさんあります。その中でも、特にすごいと思うのが、心理描写です。

内向エロス 4 (4) (ワニマガジンコミックス)
内向エロス:陽気婢


 これは少年です。文化祭で女装をすることになり、その時から自分の女装姿が忘れられなくなった少年なんです。鏡に映った自分の姿に向けて、問いかけているのです。「あたしのこと…好き?」という台詞が効いています。

 これはもちろん、誰かに言うための練習ではありません。女装をしても男であることを否定できない現実の自分から、あたかも女の子にしか見えない鏡の自分に向かって呟かれた言葉なのです。派手なポージングするわけでも、おどけてみせるわけでもなく、ほんの少しだけ上目遣いに。ごく自然に。

内向エロス 4 (4) (ワニマガジンコミックス)
内向エロス:陽気婢


 自慰中。自分で自分の陰部をしごきながら、顔はあくまでも鏡の自分に向かっています。「そんなにしたら…」という言葉は、男である自分自身の心の独白でありながら、鏡の向こうの少女に対して発せられた言葉でもあります。

 彼は女装しながらも、自分自身が男性であり、性の対象が女性です。そうでなければ、鏡に向き合う必要がないのです。そして、鏡に映った姿は紛れもなく少女です。鏡の彼女は外見しか存在しないので、当然外見通りの女の子なのです。

 鏡の自分と舌を合わせ、うつろにした目が、彼の心境を語っています。鏡を介することで初めて、男の自分と女装した結果としての少女を切り分け、欲情することができるのです。そして、自慰をすることによって、切り分けたはずの少年と少女が混ざり合っているのです。

 たった十数枚のマンガに、これだけ細密に心理描写を書き込んでいるのです。同じ題材を描いた作品は当然ながら『内向エロス』以外にもあるのですが、これほど的確で緻密な心理描写をする作家を、俺は陽気婢先生以外に知りません。
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■2008/02/15(金) 人形劇のような『神戸在住』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『巨娘』があまりにも面白かったので、作者の前作『神戸在住』を買ってみました。

 『神戸在住』は、まるで人形劇のようなマンガです。いや、正確に書けば、人形劇とは全く逆の作品です。

神戸在住 1 (1) (アフタヌーンKC)
神戸在住:木村紺


例えば、上のコマです。荒い画像ですが、それでも情景が細密に描かれていることが分かると思います。おそらく、知っている人が見れば場所が特定できるほどの精度です。そして、彼女はお気に入りの小説をピンポイントで紹介しています。その小説を読んだことのある人なら、小説のタイトルだけで、彼女の性格の一端を理解できるのでしょう。

 『神戸在住』の世界はリアルに満ちています。背景に描かれる神戸の景色やキャラクターの内面に至るまで、細部が細かく描かれているのです。それは上に挙げたように、知識さえ伴えば、ほとんど完全に作品世界を理解できるほどに現実に順じています。

神戸在住 1 (1) (アフタヌーンKC)
神戸在住:木村紺


 ところが、その世界に生きるキャラクターたちは極端なほどにマンガらしいのです。関節などないかのような、曲がりくねった手足。等身こそ大きいものの、その姿はとても非現実的です。そう、いかにもフィクションの世界の住人といった具合です。

 世界とキャラクターの外見のギャップ。これこそが『神戸在住』という作品なのだと思います。ギャップにつまづくと、あたかも世界の中にキャラクターだけが浮かび上がっているようにすら感じます。現実を切り抜いた背景に、細かな人間の心理の描写があり、その中でキャラクターだけが作られた人形のように動くのです。

 例えば、最初から全てが現実とは別の法則で動いている作品では、あえてそれをフィクションだと感じません。それがフィクションであると意識する必要がないからです。しかし、『神戸在住』はギャップによって強烈な違和感を引き起こすので、返ってフィクションであることを意識してしまうのです。

 人形劇の人形とは、デフォルメすることで理解を助けるためのものです。物語や絵本よりも、人間を模したものを動かすことによってリアルを与えるのです。しかし、『神戸在住』の場合、キャラクターだけが人形らしいために、そこでリアルさを捨てているのです。

 つまり、『神戸在住』はあたかも人形劇のようなマンガだけれども、それによって人形劇とは逆の性質を持っているマンガだと思うのです。穏やかで平和で和やかな作品でありながら、読者を浸りこませない。その性質は好きです。
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■2008/02/14(木) エロさ以上に、面白さの勝つエロマンガ『お乳屋本舗』 このエントリーを含むはてなブックマーク

お乳屋本舗 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)


 前々から気にはなっていたんですが、ついに『お乳屋本舗』を買ってしまいました。表紙からして、正統派なエロマンガを期待していたんですよ。俺の中の正統派エロマンガっていうのは、女子高生が彼氏と学校で仲良くイチャイチャしてたら、それを妬んだ他の男子に輪姦とか、まあ、そんな感じのです。いや、いかにも、そういう表紙じゃないですか。

 でも、全然違うの。読んでみると、全く違う。俺の期待していた、正統派なエロマンガは皆無です。ただし、それは期待外れという意味じゃありません。むしろ、期待を上回る面白さなんです。エロマンガとして十分にアレできるほどエロく、かつ面白いんです。そう、『お乳屋本舗』は表紙とは裏腹に面白いエロマンガなんですよ。

お乳屋本舗 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)
お乳屋本舗:八十八良


 例えば、このように双子のシンクロ。片方が怪我をすると、もう片方も同じ部分に痛みを感じる。というようなネタをエロマンガに生かした、コメディタッチのエロマンガがあります。キャラに嫌味がなく、テンポも良いです。しかし、『お乳屋本舗』の中では、これくらいの高クオリティは普通のレベル。「なんだ、ただの神か」てなもんですよ。

お乳屋本舗 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)
お乳屋本舗:八十八良


 こっちは、姑と嫁と書道をネタにしたエロマンガ。姑の意地の悪さに腹の据えかねた嫁が、姑の歯ブラシを洗面台に投げつける。そんなことを繰り返していたら、棒状のものが持てなくなってしまった、どうしよう。そんな話です。上のあらすじだけ読むと、明らかにエロマンガのネタじゃないとこが素晴らしいですね。でも、エロいんですよ、これも。

お乳屋本舗 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)
お乳屋本舗:八十八良


 極めつけは、これ。レオタードの話です。委員長の元に、いじめられていると訴えにきた新体操部員が来ました。委員長が「どんな風にいじめられているの?」と聞いたところ、出てきたのが↑です。なんか、もう、筆舌に尽くしがたいほど異様で、面白いです。「ナニ、これ?」っていう。これを見せられた委員長の返しも、すごく強引で笑えるんですよね。

 『お乳屋本舗』は実用に耐えうるほどのエロさはもちろんですが、それ以上に爆笑コメディとして素晴らしいくらいに面白いエロマンガですぜ。
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■2008/02/13(水) 電撃大賞の『ほうかご百物語』と『藤堂家はカミガカリ』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 意外とラノベも読みます。現代オタクの嗜みとして、電撃文庫くらいはカバーしとるわけです。ただ、いかんせん書けることがない。「面白い」とか「つまらない」、あとはあらすじくらいしか書けんのです。それで一回分の更新というのは、閲覧者の方に申し訳ない。

 で、今月は電撃小説大賞が発表されましたので、今日・明日は受賞作品のあらすじ解説と雑感をまとめてみたいと思います。今日は『ほうかご百物語』と『藤堂家はカミガカリ』です。

ほうかご百物語 (電撃文庫 み 12-1)


 ↑が『ほうかご百物語』の表紙です。一番大きな女の子が妖怪のイタチさん。小さいのは、右から順番に妖怪研究家で先輩の深島御崎、モデルのためなら何でもする美術部員の白塚真一、九尾の狐の稲葉前です。

 ひょんなところで出会ってしまった真一とイタチさん。真一はイタチさんに殺されかけるも、絵のモデルになることをお願いし、了承を得ます。そんな二人(と先輩の御崎)が高校に巻き起こる妖怪騒動を解決する、というのが『ほうかご百物語』です。学園コメディですね。

 帯裏には『キノの旅』の時雨沢恵一の推薦文が書かれております。



イタチっ娘萌えの歴史は、今ここから始まる。
とりあえず、レジに行こう−
”この話”はそれからだ。

あと記載しておくとすると……ヒロインが頑張り屋で、
あからさまな萌え萌えでもないので、普通に女子にもお勧めできるのが
高ポイントでしたと審査員一同が言っていたあの日とか。



 最近の受賞作の中では『お留守バンシー』に近いですね。深沢美潮といってもいいかもしれない。ほんわかと和めるキャラクターが日常を過ごして、ちょっと暴れる。どんな人でも楽しく読める、安定感のある一冊です。

 ただ、無色透明というか、強い個性や売りみたいなものが、ほぼないです。電撃文庫は欝展開だったり刺激の強い作品も多いレーベルです。その刺激を求めている人には『ほうかご百物語』は期待外れになってしまうかもしれません。

藤堂家はカミガカリ (電撃文庫 た 21-1)


 ↑は『藤堂家はカミガカリ』の表紙です。表紙の後ろに、黄色い字が書かれているのが分かるでしょうか。これは「初登場なのに表紙は主人公の神一郎と美琴ではありません。二番目の敵、レッテです。」と書かれています。話題作りを狙ったのだと思いますが、各所で「表紙買いした」という声が聞こえているので、成功しましたね。

 現実世界とハテシナという世界があります。ハテシナの住人はものすごいパワーを持っていて、神がかり的な能力を発揮することもできます。そんなハテシナの伝説的武具が現実世界の日本で行方不明になってしまいました。

 主人公の神一郎と美琴は、とある少年を守るという目的で現実の日本に派遣されます。日本には伝説的武具を求めて、ハテシナの敵勢力が送り込まれてきます。少年宅で掃除・洗濯・弁当作りをこなしながら、敵と戦う。バトルアクションってヤツですね。

こちらの帯は『クリスクロス』の高畑京一郎。



スピーディで明快な文体が、
読者を作品世界に
引きずり込んで離さない。
この文章力は麻薬的だ。



 個人的には、料理の描写が印象的です。主人公の神一郎は料理上手という設定なんですが、パスタの作り方やハンバーグの焼き加減など、料理に関する描写だけが妙に細かいんですよね。まるで『とらドラ』の高須竜児のようです。

 思うに、構成とテンポの上手い作品ですね。全てのエピソードのページ数に偏りがなくて、個々のネタがテンポよく書かれていくんですね。例えば、神一郎と藤堂家の交流に割かれているページ数はそんなに多くないんですが、全てエピソードなんです。そのせいで、紙幅の狭い交流シーンが濃くなっています。

 今現在、俺にとってあまり面白い作品ではありません。ただ、こういう作家さんは後々バケるんですよ。『バッカーノ』も三作目からどんどん面白くなっていきましたから、きっとこの作品も三冊目くらいからブレイクするはずです。

 ちょっと検索してみたら、作者さんへのインタビュー記事があったので、リンクしておきます。

第14回電撃大賞銀賞「藤堂家はカミガカリ」の高遠豹介先生のインタビューをお届け!
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■2008/02/12(火) 「ただの猫やで?」が口癖の猫又四コマ『タマさん』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『タマさん』という四コマがなかなか面白いですよ。先日紹介した『いんどあHappy』の森ゆきなつさんの作品なんですけどね。あちらは座敷わらしものでしたが、『タマさん』の主役は猫の妖怪・猫又です。

タマさん 1 (1) (まんがタイムコミックス)
タマさん:森ゆきなつ


 ほら、この通り一見するとただの猫です。猫というか太り気味のハムスターに見えないこともないですが、ただの猫です。

 ところが、何百年も生きているタマさんは人間の言葉を喋れますし、尻尾も二本ついております。

 そんなタマさんのいるお宅に色んな妖怪が現れる、というのが『タマさん』という四コマです。

タマさん 1 (1) (まんがタイムコミックス)
タマさん:森ゆきなつ


 こちらはコロモムシという妖怪。多摩川のたまちゃんではありませんし、エビフライでもないです。タンスに閉まった服を切り刻んで、自分のミノにしてしまう、でっかいミノムシです。

タマさん 1 (1) (まんがタイムコミックス)
タマさん:森ゆきなつ


 雪の中に潜んでおられる、雪の妖精。猫又であるタマさんの目で見ると、雪はこんな姿をしているそうです。

 一つの回に一つの妖怪が登場して、どったんばったん暴れるというのが基本になってます。派手に面白い! って作品ではありませんが、暇な時に開くと和めます。








 四コマが面白いから買ったのであって、表紙の幼女につられたわけではありませんよ?

タマさん 1 (1) (まんがタイムコミックス)
タマさん:森ゆきなつ

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■2008/02/11(月) ユーモアの効いた良作怪獣マンガ『モンスターキネマトグラフ』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『モンスターキネマトグラフ』買いました。リュウのコミックは初ですね。

 真面目で暗いお話ながら、散りばめられたユーモアが和ませる、良作です。

モンスターキネマトグラフ (リュウコミックス)
モンスターキネマトグラフ:坂木原レム


 主人公は↑の女性。妙齢の女性で、どことなくくたびれた感じがあります。乱れた黒髪が艶めかしいですね。

モンスターキネマトグラフ (リュウコミックス)
モンスターキネマトグラフ:坂木原レム


 彼女は興奮すると、巨大な怪獣に変身してしまいます。時代背景は六十年前に設定されてまして、彼女は怪獣兵器として戦場に駆り出されておりました。

 戦争で無理矢理に戦わされた悲劇の女性、というと暗い話になりそうですし、実際暗いエピソードもあるんです。

 が、必ずしも暗いだけでは終わらないんです。ところどころに描かれたユーモアが挟み込まれていて、これが物語の色調を明るくしてくれています。

モンスターキネマトグラフ (リュウコミックス)
モンスターキネマトグラフ:坂木原レム


 美少年の写真集。これを見て、うっかり変身してしまったり。

モンスターキネマトグラフ (リュウコミックス)
モンスターキネマトグラフ:坂木原レム


 のんきなおっさんが写真を撮ってみたり。

 物語全体としては、戦争の心の傷や怪獣に変身するコンプレックスを抱えた女性が周囲の力を借りて立ち直っていく、という流れになっています。単純に考えると暗いだけになってしまいそうな物語を、飽きずに読ませるだけのユーモアが効いているんです。
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■2008/02/10(日) ノスタルジーあふれる『ルミとマヤとその周辺』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 『ルミとマヤとその周辺』を、表紙買いしてしまいました。ノスタルジーな少女マンガです。

 主人公は、ルミとマヤ。小学生の姉妹です。父親は早くに亡くなり、母親との三人家族。バイオリニストの母親は帰りも遅く、まれに海外まで飛んで行ったりします。何十年か前の日本が舞台なので、母子家庭に対するご近所の風当たりはかなり厳しいのです。

 そんな環境の中で、ルミとマヤが田舎のじいちゃんばあちゃんちに預けられたり、ガキ大将と対決したり、筆箱の宝物を探したりする。いかにも、小学生らしい遊びを展開するのが『ルミとマヤとその周辺』ですな。

 『ルミとマヤ』がどれくらいノスタルジーなのか、ちょっと『よつばと』と比べてみましょう。

ルミとマヤとその周辺 1 (1) (講談社コミックスキス)   よつばと! (1)
ルミとマヤとその周辺:ヤマザキマリ      よつばと!:あずまきよひこ


 『ルミとマヤ』は駄菓子屋でよく分かんない棒状の液体をすすったり、ヨーヨーやったり。一方、『よつばと』はコンビニです。

ルミとマヤとその周辺 1 (1) (講談社コミックスキス)   よつばと! (1)
ルミとマヤとその周辺:ヤマザキマリ      よつばと!:あずまきよひこ


 『ルミとマヤ』では、ルミが川に飛び込んでドジョウ取り。『よつばと』はプールです。

ルミとマヤとその周辺 1 (1) (講談社コミックスキス)   よつばと! (1)
ルミとマヤとその周辺:ヤマザキマリ      よつばと!:あずまきよひこ


 『ルミとマヤ』はシャボン玉。『よつばと』はドライブ後、釣堀ですよ。

 日本も変わったなぁ、という感じです。最近は近所の川なんて汚くて入れませんし、シャボン玉はご近所の洗濯物の迷惑になってしまいますからね。だから、逆に、マンガの中でノスタルジー感じるのは結構楽しいです。
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■2008/02/09(土) 『いんどあHappy』を読み返してたんだが、これ、おまえらだろ? このエントリーを含むはてなブックマーク

いんどあHappy 1 (1) (バンブー・コミックス)
いんどあHappy:森ゆきなつ


 主役は↑の幼女。小梅といって、座敷わらしである。喫茶店を営む父親に、無愛想な兄、活発な妹の四人家族。このご家庭で小梅がほのぼの生活を送る、というのが『いんどあHappy』という四コママンガである。

いんどあHappy 1 (1) (バンブー・コミックス)
いんどあHappy:森ゆきなつ


 この小梅、お菓子が大好きである。どんなものでもお菓子は大好き。チョコにケーキに大福と甘いものも大好きなら、せんべいやポテチなど塩っ辛いものも大好き。食えるものなら見境なく、食う。座敷わらしだから太らないが、仮に人間だったらピザ確定である。

いんどあHappy 1 (1) (バンブー・コミックス)
いんどあHappy:森ゆきなつ


 しかも、この座敷わらし、ゲーマーである。「私、ちょっとゲームできるんです」とかいってテトリスやるような一般人ではない。「気が付いたら完徹してました」という筋金入りの廃人ゲーマーである。ちなみに、↑の画像は徹夜三日目らしい。

 ……なんだ、この行動パターン。なんという俺。常に何か食っていて、暇さえあればゲームしている。これはどう考えても、俺である。幼女の皮を被っているが、他人の気がしないぜ。ていうか、おまえらもだろ?
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■2008/02/08(金) 呼び名の違う『Papa told me』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 多くのマンガファンにとっては「いまさら?」てな感じでしょうが、『Papa told me』を読んでみました。キッカケは完全版を書店の店頭で見かけたこと。店員さんに聞いたところ、「完全版はエピソードが抜けてますよ」とのことだったんで、amazonで一巻を取り寄せた次第。

 実のところ、すでに可愛い表紙だけで十分に満足していたんですが、中身も最高に面白いですね。以前紙屋研究所の『よつばと』レビューで名前は知っていたのですが、失礼ながら、こんなに面白いとは思ってませんでした。

 作家というかライターの父親としっかりものの娘の二人暮し。お互いに仲が良くて、特に娘は父親が大好きです。ただし、『よつばと』のように牧歌的な雰囲気では必ずしもなくて、自由業で再婚もしない息子に冷たい祖母に苛まれたり、真面目が過ぎて子供の気持ちを推し量れない体育教師に叱られたり、と不幸な要素もあります。『よつばと』がぽかぽかと暖かい草原だとしたら、『Papa told me』は大海原に浮かぶ小さな孤島みたいな作品かもしれません。

 キャラの作りこみという書き方をすると今風ですが、登場人物や世界がまるで実在するみたいなんです。人物の体型や顔かたちなど、マンガらしい部分は当然あります。でも、話の内容や進み方がいかにも現実らしい。リアリティがあるんです。

 例えば、名前の呼び方です。主人公の少女は「知世」といいます。「ともよ」ではなく「ちせ」と読みます。彼女は周囲から様々な呼ばれ方をしています。

Papa told me (1) (ヤングユーコミックス (013))
Papa told me:榛野なな恵


 後に親友となる幸子さんと出会ってすぐのシーン。「的場さん」と苗字で呼んでいます。

Papa told me (1) (ヤングユーコミックス (013))
Papa told me:榛野なな恵


 こちらはクラスメイト。「知世ちゃん」と漢字の名前に「ちゃん」が付けられてます。ちなみに、知世の祖母も「知世ちゃん」です。

Papa told me (1) (ヤングユーコミックス (013))
Papa told me:榛野なな恵


 叔母と二人でデパートに出かけたところ。「ちせちゃん」と、ひらがなの名前に「ちゃん」付きです。

Papa told me (1) (ヤングユーコミックス (013))
Papa told me:榛野なな恵


 そして、知世の一人称。「ちせ」です。

Papa told me (1) (ヤングユーコミックス (013))
Papa told me:榛野なな恵


 父親からも「ちせ」と呼ばれています。

 マンガやライトノベルでは、同じキャラクターは同じ名前で呼ばれることが多いものです。例えば、『ナルト』では、主人公のことをみんなが「ナルト」と呼びます。戯言シリーズのように、意図して複数の名前が付けられることもあります。キャラの立場に合わせて、全く違う呼び方を出してしまうやり方ですね。

 一般的に、キャラの呼び方が固定されているのは、混乱を防ぐためです。キャラと名前を一対一にして、判別をつきやすくしてあるのです。それは現実という観点から見ればおかしいことですが、マンガとしての読みやすさを考慮した判断です。

 『Papa told me』は逆です。マンガとしての読みやすさをある程度捨てて、現実らしさを際立たせているのです。知世と周囲の関係性や距離に応じて呼び名を変えることで、距離感を示し、物語の一エピソードにまで仕立て上げているのです。

 リアリティや現実感があるから、単純に良いマンガというわけではありません。マンガ・フィクションらしい部分と現実感のある部分がはっきりとして、揺るがず、その比率が素晴らしいのです。
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■2008/02/07(木) 田中エキスは口がエロい このエントリーを含むはてなブックマーク

 田中エキスはエロマンガ家である。エロマンガで口といったら、キスかフェラと決まっている。だから、エロいのは当たり前だ、と思うかもしれない。しかし、そんな話じゃないのである。男と接吻かましてたり、チンコ咥えたりしてりゃエロいのは当たり前。だが、そうじゃないのだ。

 田中エキスの口は、その感情表現に優れているのである。しかも、開いた口ではない。閉じた口である。閉じた口がへの字や逆への字になる。ときには、うねうねとくねったりもする。その変幻自在の口が、キャラの心を詳細に表現し、エロティシズムを巻き起こすのである。

あにぴゅ! (富士美コミックス) (富士美コミックス)
あにぴゅ!:田中エキス


 ブリーフ一丁で寝ていた兄貴の股間を見て、思わず触ってしまっている。顔の斜線が赤さを表現し、そこから彼女の興奮が読み取れる。そして、引き締まった口が緊張と好奇心を上手く表現している。

あにぴゅ! (富士美コミックス) (富士美コミックス)
あにぴゅ!:田中エキス


 こちらはちんこを触られた兄が目を覚ました後。うつむき加減と口の逆への字が「穴があった入りたい」というような、強烈な恥ずかしさを出している。

あにぴゅ! (富士美コミックス) (富士美コミックス)
あにぴゅ!:田中エキス


 その後、互いに触りあって、セックスしてみよう、となった瞬間。への字から唇が固く結ばれているのが分かり、そこから緊張感と期待が伝わってくる。

あにぴゅ! (富士美コミックス) (富士美コミックス)
あにぴゅ!:田中エキス


 最後は事後の図。波のように描かれた口が、安心しきって眠っているな、と分からせてくれる。

 これはエロマンガである。エロマンガといえば、おっぱい丸出しで、ちんこ出して、セックスしたりするマンガである。だが、このレビューには局部の画像など一件も使っていない。にも関わらず、エロい。このエロさは、田中エキスの口だからこそである。
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■2008/02/06(水) 二十年前のインターネットマンガ『WAVE』 このエントリーを含むはてなブックマーク

 ヤングチャンピオンから出た『WAVE』が面白いんですよ。原案:藤村ZEN、監修:藤下真潮、作画:THE SEIJIと三人も関わってるだけあって、細かなところにリアリティがあって、話もすごく面白いんですよ。なんだろうな、全体的にしっかりしてるんです。

WAVE 1 (1) (ヤングチャンピオンコミックス)
WAVE:THE SEIJI


 まず、こちらが牛嶋繕。技術もなければ、頭が良いわけでもない。パソコンなんかほとんどできないし、何が良いのか悪いのかも、本当は分かってない。ただ、インターネットで何ができるのか、どんなことをしたらいいのか、何がウケるのか。そういうことを本能的に嗅ぎ分ける才能があります。

WAVE 1 (1) (ヤングチャンピオンコミックス)
WAVE:THE SEIJI


 矢部通。大学受験に失敗した浪人生。ソフトの才能はいまいちですけど、ハードに関する技術があります。ファミコンの基盤をいじってビデオの端子を取り付けたり、本来付かないはずのマウスを配線いじって繋げたり、という芸当ができます。

WAVE 1 (1) (ヤングチャンピオンコミックス)
WAVE:THE SEIJI


 そして、この男。あからさまにホリエモンな見た目をした彼は、堀川高文。堀川は恐ろしいほどのソフトの才能がありまして、なんと彼は機械語が読めるんですよ。普通の人がパソコンにプログラム見る時は英語みたいな命令文を読み解くわけですが、堀川は数字がだーと並んでるのを見るだけで分かっちゃうんですよ。

WAVE 1 (1) (ヤングチャンピオンコミックス)
WAVE:THE SEIJI


 最後に、紅一点。山口静ちゃん。掲載紙がヤングチャンピオンですから、お色気も当然必要。根が優しくて、ちょっと気の強い静ちゃんが、だらしのない男三人を引っ張っていきます。

 舞台は80年代で、その頃のパソコンとかインターネット界隈のストーリーです。PC88が最新機種で、マイコンが全盛期の頃です。一番売れてるゲーム機がファミコンとか、そんな時代です。ここで上の四人がどうにかパソコンで金を稼ぐのです。

 絵は綺麗なわけでも可愛いわけでもなく、分かりやすい感じ。ストーリー展開や演出も地味ではあるものの、面白いです。およそ二十数年前のパソコンがテーマですから取っ付きにくいんですけど、解説が丁寧なのでよく分かります。小学校の図書室に歴史マンガってあったじゃないですか。ちょうどあれみたいな感じで、なんだかんだいって一冊読むと楽しかったな、と思える。そういうマンガですね。

 作者さんの公式ホームページがこちら、ファンの方の解説ページがこちらです。
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■2008/02/05(火) 東山翔先生の『Stand By Me』が可愛すぎる件。 このエントリーを含むはてなブックマーク

 まずもって、LOなんですよ。LOというのは、ロリコン専用エロマンガ雑誌。ちいちゃい女の子に青年(もしくはおっさん)がえっちなイタズラ、とか。児ポ法が改正されたアカツキには地上から抹殺されること請け合いの素敵な雑誌です。

 で、不思議に思うべきかどうなのか、LOの作品はクオリティが高すぎる。ライトなエロの鬼束直先生に繊細な心理描写のスミヤ先生、おバカにエロい裏次郎先生と肉感的な尻の描写に定評のある月吉ヒロキ先生など。LOの作家さんはみなさん、個性的かつ質が高いんですよ。

 東山翔先生も、そのLOの作家さんなんですね。絵柄は全体的に丸々としていて、柔らかそう。まさに「ぷに」という言葉がよく似合う感じです。内容もライトな和姦が、安心して読める。ただ、どっちも、どっちも上手いんですけど、LOの中では標準的な感じですかね。

 俺が東山翔先生の真価だと思うのは、絵柄やストーリーではなくて、その少女の仕草や心理描写なんですよ。

StandByMe(TENMAコミックスLO) (TENMAコミックス)
StandByMe:東山翔


 例えば、↑です。これはエロマンガの定番。男がじらすだけじらして、放置して、「さあ、どうする?」てなことを言ったシーンです。この枕をボフボフと殴りつけて、恨み言を連ねて怒っているように見せながら、しっかり顔が恥らっているところが最高です。

StandByMe(TENMAコミックスLO) (TENMAコミックス)
StandByMe:東山翔


 こちらは、セックスの後の帰り道のシーン。セックスして、「ああ、やっと一つになれたね」という定番のなわけです。セックスが体を一つにすることだというなら、手をつなぐことも体を一つにすることだ、という論理。この赤面具合が堪りません。

 別に「東山翔先生の少女はリアルだ」と言いたいわけではないんですよ。こういう女の子が実際にいるかいないか、っていうのはどうでもいいのです。ただですね、もし仮にこういう女の子がいたら、確実に俺は好きになる。

 つまり、東山翔先生は理想の女の子がするような、ものすごく可愛い仕草や心理描写を描き出してくれる。そこなんですよ。
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■2008/02/04(月) 絶望の物語(『アンダーザローズ』) このエントリーを含むはてなブックマーク