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■2008/05/16(金) セミとおえかきと恵那 このエントリーを含むはてなブックマーク

よつばと! (1)
よつばと! : あずまきよひこ


 『よつばと』を読み返していたんですけど、よつばと恵那って、メチャクチャ仲が良いですよね。友達というよりも、家族のようです。元気で破天荒な妹と大人しいけど大胆なところもあるお姉ちゃん。そういう感じです。

 二人はなんでこんなに仲が良いのだろう。ここまで仲が良くなったのは、いつからだったろう。と思って、パラパラめくってたんですが、どうも二つの回が転換点になるみたいです。セミとりの回と写生をしに行く回です。

 まず、よつばと恵那の初対面は、公園でした。第一話の「よつばとひっこし」の回ですね。ブランコの前にしゃがみこんで、ブランコの座る部分を揺らしているよつばを、終業式が終わって家に帰る途中の恵那が発見します。「かわった子」というのが第一印象でした。

 その後、第三話「よつばと地球温暖化」に、恵那が登場します。恵那の部屋に、よつばが突然乱入してきます。暑い部屋の中で、得意げに「クーラーしってるか?」というよつばに対して、地球温暖化を教える恵那。その話しぶりは、顔見知りだけど知らない子、という距離感です。引越し翌日ですから、当然なんですが。

 そして、第六話の「よつばとせみとり」です。この回では、恵那がほぼ最初から最後まで出ずっぱりです。「セミとりだ!」と宣言するよつばに連れられて、よつばと恵那のセミとりの一日が始まります。これが朝から夕方まで、一緒に遊んだ最初の日になります。

 人が人と仲良くなるきっかけというのは、色々あります。その中の一つに、一緒に一つのことをする、というのがあります。例えば、修学旅行とか文化祭をやると、みんなの仲が良くなります。成功や失敗を共にして、何かをやり遂げる達成感を味わうのが良いらしいです。

 この日、よつばと恵那はセミ取りをします。道具を買いに行くために、二人でトラックの荷台に乗ります。二人はここで「楽しい」と気持ちを共有します。セミ取りがなかなか上手くいかない、悔しい気持ち。見事にセミを捕まえた達成感。色々なことを体験します。

 実は、この回ではよつばと恵那は直接に絡んでいません。よつばとジャンボ、恵那とジャンボは会話しているんですが、よつばと恵那は意外に話してません。よつばは一巻でも最新の七巻でも全然態度が変わってないのですが、恵那の方はちょっと戸惑っています。

 さて、大量にセミを捕まえたよつばは恵那の家に帰ります。「母ちゃんが喜ぶと思った」よつばは、家の中でカゴを全開にします。もちろん、セミは逃げ出しますから、恵那の家はセミが飛び回る、大変なことになります。

 家の中をセミが飛び回る惨状を見たあさぎは、すぐに殺虫剤を持ってきます。今まさにセミの大量虐殺が行われんというところで、必死に恵那があさぎを止めます。もちろん、セミが殺されるのがかわいそう、というのもあったでしょう。でも、それ以外に、セミとりの一日がなかったことになるのが嫌だったのではないでしょうか。

 ここで、仮にセミが全滅させられちゃったとします。殺虫剤を使って、片っ端から殺していっちゃう。すると、セミとりをして過ごしたよつばと恵那の一日はなかったことになります。いえ、もっといえば、セミとりそのもの、一緒に遊んだことそのものが悪かった、ということになります。

 この場面におけるセミというのは、よつばと恵那の時間の象徴なのです。一緒に遊んだ記憶や思い出、過ごした時間や気持ちが、結果としてセミという形になっているのです。だから、恵那がセミの殺されることを防ぐのは、時間や気持ちを守るということになるのです。

 さらに、第八話「よつばとおえかき」で、よつばと恵那の他の人物が出てきます。恵那の友達、みうらです。みうらは優しくて良い子ですけど、ちょっと勝気で素直すぎるところがあります。悪くいえば、正直すぎるというか、ガサツな部分があるのです。

 みうらは子供だからといって、よつばに遠慮がありません。それまでのよつばは圧倒的に甘やかされています。周囲は全員が年上で、ジャンボにしろ、風香にしろ、母ちゃんやあさぎにしろ、正面からよつばを相手にすることがありません。

 ところが、みうらは違います。みうらが遠慮のない性格だということもありますし、年齢が近いというのもあります。みうらは思ったことをそのまま口に出してしまうので、「よつばの(絵)はへただろう」と正直に言ってしまったりするのです。

 人間は可愛いものを可愛がります。と同時に、可愛がるものは可愛いと感じるのも人間です。おえかきに行く前は、恵那とよつばの関係は微妙なところでした。ところが、一切甘えさせることないみうらが登場したことで、恵那は自ら積極的によつばを甘やかすことになるのです。

 ここで、一気に恵那からよつばへの心理的な距離が縮まります。それまでは近所の変わった子、遊びに行ったこともあるけれど、お友達まで今一歩というところでした。それがみうらの登場によって、一挙によつばの保護者的ポジションに納まるのです。

 あずまきよひこ先生は当然すごいんですけど、マンガという表現に驚きます。例えば、『狼と香辛料』はかなり心理描写に長けた小説です。ホロとロレンスの掛け合いに差し込まれた心理は非常に繊細で、その分だけ表現も複雑になっています。

 マンガは、『よつばと』はとてもシンプルな形で、ごく自然にキャラクターの心理を描いてるんですよね。知り合いと友達という言葉の境界線やそこに潜む微妙な距離感、じょじょに仲良くなる過程といったものを誰でも分かるように描いています。それはとてもすごいことですよね。
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