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冨樫義博の割り切り力 このエントリーを含むはてなブックマーク

 久しぶりに『レベルE』を読み返していたが、メチャクチャ面白い。『幽遊白書』だの『ハンター×ハンター』だのと書いているし、それらも面白いことは面白いが。でも、圧倒的に『レベルE』のが面白い。ぶっちぎりである。

 現実のレベルというか、リアリティが違うのだ。ありえないことを平気でやる。マンガとか小説とか、基本的にウソがつき放題のメディアだからこそできる表現を目一杯活用してる。できると知ってても、普通のマンガ家はここまで割り切らない。

■マンガの持っている制約

 現実には色々な制約がある。例えば、重力というものがある。物質が互いに引き合う引力というものがあり、質量のでかいものほど強い。恒星とか惑星ほどでかいと、人間ごときは対抗できないパワーを発揮する。あまりにも圧倒的だから、それは引力ではなくて重力と呼ぶ。

 重力があるせいで、人間は空が飛べない。本当は飛べるかもしれないのに、地球上では不可能なんである。月の重力は地球の六分の一だそうで、軽くジャンプしただけで跳びあがれるらしい。月ほど重力の低いとこに生まれてたら、人間の体重でも空を飛べたかもしれない。

 こういう理想や空想は、現実では通用しない。いくら願っても、空は飛べない。なんでもくそもない、そういう世界なのである。人間が空を飛ぶには、どでかい鉄の塊で飛行機を作ったり、高いところから飛び降りたり。非常に現実的な手段が必要になる。

 ところが、マンガではウソがつける。いくらでもつける。例えば、空だって軽々飛べる。超能力が使える設定にしてしまえば、念動力で体を持ち上げたりできる。もしくは、背中に羽が生えてることにしてもいい。地球だったらいくら羽がつこうが飛べないわけだが、その世界の人間は飛べるのである。

 しかし、だからといって、マンガの世界が自由極まりないわけではない。マンガはマンガの世界において、バランスを取らなければいけない。あるキャラクターが時に空を飛べて、時に空を飛べないなんてことはありえない。そうだとしたら、何らかの説明が必要になる。

 空想の世界であるから、作者が決めさえすればなんでもできる。なんでもできるが、過去に取り決めたことを一方的に破ることはしてはいけない。主人公の頭の色が赤だったり黄色だったりしてはいけないし、命を使った必殺技を何度も使ったりはできない。

■冨樫義博のすごさ

 で、ここからが本題なのだが、現実には非常に厳しいルールがある。物理法則や常識というルールである。そして、マンガにもルールがある。作者が一度決めたことを勝手に途中で変更してはいけない、というルールだ。

 このルールを平気で破るのが、冨樫義博のすごさであり、バランス感覚であり、『レベルE』の面白さである。上は、ドアから追い出した人間が堂々とドアを開ける。怒って追い返して、部屋に戻ったら何故かいる、というシーンである。

 ありえない。『レベルE』は現実を模した世界設定になっているし、それを考えなかったとしても、追い出された人間が瞬時に部屋に戻って、追い出した人間よりも早く存在するなんて、ありえないのだ。現実にも、マンガ的にも、ありえないことをしている。

 なんでこんなムチャなこと、どう考えても不可能なことを描くのかというと、面白いからである。そう描くと、すごく面白いから、ありえないけど描いているのである。これを描くことによって、明らかにリアリティが薄れるにも関わらず、面白いから描く。

 『レベルE』の最大の売りというか、特徴はなさそうでありそうなストーリーである。人間そっくりの宇宙人が地球に来ていたり、何百という宇宙人が生活していて、人間を食っている。ごく身近な物語であり、ありそうだと思わせることこそが面白さの核になっているマンガだ。

 そういうマンガにおいて、あえて、ありえないことを描く。面白さを追求する。こんな程度で、これくらいの描き方なら今後のリアリティは崩れないだろう、と計算する。そのバランス感覚がすさまじい。冨樫義博のすごさは、この割り切りである。
2008年05月19日 | トラックバック(0) | コメント(0) | 作家論 | Page Top


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