
『ハチワンダイバー』五巻を読んだ。相変わらず、面白い。メチャクチャ進みが遅く、はったりしかない。そのケレンミが素晴らしいのだ。ストーリーなんて五冊あってもまるで進んでおらず、キャラクターも叫んでいるだけ。ケレンミだけが作品を支えており、東西随一のケレンミが面白すぎるのである。
世の中には将棋を指すことで生活を立てる人間がいる。プロ棋士である。このプロ棋士に憧れ、将棋一本の人生を送ってきた男が、ついに年齢制限に引っ掛かってプロ入りを諦めるところから『ハチワンダイバー』は始まる。
生きるための何の取り得もない主人公。何故なら、勉強も運動も全くやらず、ただひたすら将棋ばかり指してきたからである。そこで、彼は町の将棋集会所で賭け将棋をして生きる、真剣師になることを決意する。
しかし、そこはただひたすらに勝ちを求めてきた男には辛い場所だった。賭けをするからには、相手がノらなければいけない。「自分でも勝てそうだ」。そう思うからこそ、相手は金を賭ける。そのためには、そこそこ勝ち、そこそこ負ける。わざと負ける必要が出てくる。
砂を噛むような思いで真剣師の将棋を指し、精神をボロボロにした男はチラシでもらったお部屋掃除の出張メイドに電話してみる。すると、現れたメイドさんはなんと集会所で真剣師をしていた、地味でぽっちゃり系の女性だったのだ。そして、その日から男の目標は、彼女を将棋で負かすことになる。
『ハチワンダイバー』はコマ数がメチャクチャ少ない。五巻の冒頭39話は19ページある。その中でコマは53しかない。平均すると、2.78なので、1ページにだいたい3コマしかないのである。ちょうど手元にある『絶対可憐チルドレン』11巻を計測してみる。19ページで68コマあるので、平均3.57。1ページにつき4コマはある計算になる。しかも、この回は見開き表紙が入っているので、実際にはもっと多くなるだろう。
普通のマンガに比べて、明らかに少ないコマ数で、ガンガン進んで行く。書き込み度合いにもよるが、コマが大きければ大きいほど、説得力やインパクトが増す。だから、『ハチワンダイバー』の迫力は自然とものすごいことになる。『ハチワンダイバー』はインパクトケレンミのマンガなのである。
緻密なケレンミを使うマンガも、世の中にはある。例えば、最近の浦沢直樹作品はみなそうだ。『Monster』や『20世紀少年』、『PLUTO』はケレンミだけで最後まで押し切った作品群である。これらの作品は多大な伏線が張り巡らされ、ストーリーも複雑である。キャラクターについての詳細な設定があり、細かな仕草までよく描き込まれている。
しかし、最初から最後まで通して読むことで、それだけ大きな楽しみが得られるか。というと、そんなことはない。これらの作品の共通点は最初から最終回一歩手前までは異様なほど面白いのに、最終回だけは理解不能になる。そこである。逆にいえば、終わるまではとことん面白い。それが最近の浦沢直樹なのである。
『ハチワンダイバー』と浦沢直樹は、毛色は違っているものの、ケレンミしかないという点では同じである。ケレンミの強いマンガとは、読む前や読んだ後よりも、読んでいる瞬間が面白いマンガだ、ということなのだ。そして、マンガに一番重要なのは読むことが楽しいということである。
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