『とろける鉄工所』の話。どうやら、講談社のイブニングで連載しているマンガのようです。店頭で書店員に勧められ、手に取った一冊です。溶接工で生計を立てる男性が日常を面白おかしくつづった作品となっています。端的に説明すれば、溶接工のあるあるネタということになります。
■あるあるネタのメリット・デメリット
ところで、あるあるネタというのは面白い言葉です。もちろん、万人に親近感を抱かせるネタもあります。しかし、多くのあるあるネタは読み手を選ぶのです。ある人にとって身近で親近感の湧くネタでも、別の人から見れば意味の分からないネタでしかないのです。
例えば、学校生活は万人が親近感を抱くことの多いテーマです。日本では教育制度が充実しているため、ほとんどの方は小学校と中学校、高校に類する場所に通っています。時代や地域によって違いはあるものの、おおむね同じ体験をしているのです。
同じ体験をしているものをテーマにすれば、読者は自然と親近感を抱くことになります。ただし、同じ体験をしている人間が多いということは、それを書くことのできる人間も多いということになります。多くの先人がいることになるので、目新しいネタを提供することは難しくなります。
ところが、こういったメジャーなテーマを離れてしまうと、あるあるネタは一気に万能性を失います。例えば、僕はビリヤードに凝った時期があったので、ビリヤードネタは僕にとって非常に親近感の湧くテーマです。しかし、果たしてビリヤードに興味を持つ人間がどれだけいるでしょうか。
■笑いどころを選び出すセンス
冒頭に戻りましょう。『とろける鉄工所』は溶接工をテーマにした作品です。溶接の道具や知識、溶接工にとっての常識が溢れた作品です。溶接工にとっては身につまされるネタばかりなのでしょう。しかし、一歩離れてしまえば、そこは宇宙人や異世界人と変わらない世界になります。理解の外の話なのです。
そんな未知の世界、理解できない知識の多いはずの『とろける鉄工所』ですが、とても面白い。僕にとってはM78星雲の常識について語られるに等しいテーマであるにも関わらず、面白いのです。何故なら、作者のネタ選びが上手く、説明が絶妙だからです。
基本的に、人間は笑いどころが分かれば笑います。泣きどころが分かれば泣きますし、怒りどころが分かれば怒ります。感情は自然に出てくる場合も多々ありますが、社会的な現象として出現することも多いのです。他人が笑っていたら、なんとなく面白い。そういうものです。
■溶接工という非日常ではなく、そこから共感を選び出す才能
『とろける鉄工所』の作者は、その面白さを取り出すことが上手いのです。このネタをこの流れで書いたら、面白いのだ、という状況を作り出します。『とろける鉄工所』だけを抜き出せば、溶接工のあるあるネタということになります。メディアなどで取り上げるとしても、そういった扱いでしょう。しかし、個人的には、この作品の面白さは作者の演出が絶妙である点だと思います。
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