 群青学舎:入江亜季
まず、上の女の子を見て欲しい。彼女の名前はニノン。小さな魔法使いである。コミックビームで連載中の入江亜季『群青学舎』二巻「ニノンの恋」の主人公である。
ニノンには好きな男の子がいた。川辺に座って本を読んでいるところを見かけ、恋に落ちた。彼に宛てた恋文が机に何通も溜まっている。遠目に姿を知っているだけのニノンには、彼の名前を知るよしもない。だから、恋文には宛先が書かれない。
ところで、ニノンは美人で大人の魔女二人と一緒に暮らしている。母の姉妹、つまり、叔母である。彼女たちの顔は美しく、自分たちの美しさに自信を持っている。そして、ニノンの顔を見て、「ブサイク」や「ブス」と言い放つのである。
さて、この文章の冒頭に戻ろう。上の女の子を見て欲しい。彼女は可愛いだろうか? それとも、ブサイクだろうか?
 群青学舎:入江亜季
次に、上の女の子を見て欲しい。彼女もニノンである。叔母たちの美しさの秘密は、その魔法にある。複雑かつ丹念に仕上げられた魔法によって、叔母たちは絶世の美しさを手に入れているのである。叔母たちのイタズラによってニノンを傷つけてしまったお詫びに、叔母たちが美しさの魔法をかけた。それが上のニノンである。
冒頭の画像と二番目の画像を見比べて、どちらがより美しく見えるだろうか? それとも、ブサイクなのだろうか?
結論から言えば、冒頭のニノンも二番目のニノンも、ほとんど大差はない。少なくとも、作品の設定上はそうなっている。魔法をかけない叔母たちは、実は一般的にはブサイクと呼ばれる顔かたちをしている。それに比べて、ニノンの母は魔法をかけずとも絶世の美女なのである。叔母たちはニノンの母に対するちょっとした嫉妬によって、娘のニノンを「ブサイク」と呼んでいるだけなのだ。
ニノンの母は生まれついて絶世の美女であった。だから、ニノンの顔かたちも何もせずとも整っている。それまで「ブサイク」と呼ばれていたのは、叙述トリックだったのである。
マンガというのは、絵が正しいのか、台詞が正しいのか、分からない時がある。ハーレム系のマンガの主人公は「目立たない」という設定なのに、イケメンだったりする。「可愛くない幼馴染」という女性キャラも、描かれる姿は可愛かったりする。登場人物が全て美男美女なのに、作品世界では優劣があることも多い。
そういった、絵と台詞の不安定さがマンガという表現にはある。マンガの叙述トリックとは、その不安定さを逆手にとった手法なのである。
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