俺は食うのが好きだ。買って食うのも、自分で作るのも。外食するのも、誰かに作ってもらうのも大好きだ。食べ物の写真を見るのも好きだし、レシピを見ながら工程を考えるのも好きだ。行き慣れない土地に行った場合は、必ず本屋と飲食店をチェックする。和洋中なんでも好きだし、アラブ系や東南アジア系の料理も結構好きだ。
で、美味い料理というものがある。黒豚だの伊勢海老だのといった高級なものでなくとも、旬で新鮮な食材を選んで使う。一気に全てを炒めるのではなく、順番に炒めてから混ぜ合わせる。何時間も根気良く煮込んでみる。そういう地道な工程の積み重なったものは、美味い。
一方で、ジャンクな美味しさというものもある。マクドナルドやケンタッキーなど、ファーストフードがそうだ。明らかに油が多いし、塩味も強すぎる。油で胃を膨らませ、塩分で刺激を与える。瞬間的な楽しみのためだけの食べ物。毎日食べると体に悪いけれど、時々猛烈に食べたくなる。
そして、気持ちの料理というものもある。堅実な材料集めや調理の結果でもなければ、油や塩分が強いわけでもない。ただ、思い出の詰まった、だからこそ美味いと感じる料理。小学校の頃に食べた給食や夕暮れの住宅街に漂う煮物の臭いなど、郷愁を誘うような食べ物。

この気持ちの料理に焦点を当てたのが安倍夜郎『深夜食堂』である。ちょっと前にレビューを読んでから探し回って、ようやく神田の丸善で手に入れた。URLを残しておかず、検索にもひっかからない。ぜひリンクしておきたいんだが。知っている方がいたら、コメントお願いしたい。
このマンガには色々な料理が登場する。一晩置いて冷えたカレーを熱々のご飯にかける「きのうのカレー」や着色料で染められたウィンナーをタコ型にした「赤いウィンナー」などである。一応は飲食店を舞台にしたマンガなのに、市販のインスタントラーメンが登場することさえある。
人間、誰でも一つくらいは思い出の料理みたいなものがある。俺の場合は、ソーメンだ。共働きで預けられていたばあさんの家で、毎週土曜に出てきたのがソーメンだった。なんでか知らないが、六年間毎週ソーメンなのだ。あの頃一緒にソーメンを食ったばあさんは死んでしまった。そのせいか、どうもソーメンを食うと感傷的になってしまう。
このマンガは、こういった誰かの食い物への思い入れを描いたマンガである。フランス料理だの高級食材といったものは一切出てこない。特殊な技巧やアイディアが描かれるわけでもない。料理のマンガだが、料理について描かれることはない。描かれるのは、思い入れだ。
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