『内向エロス』を読み返していたんですが、陽気婢先生は天才すぎますね。思春期の少年少女を描き出すのに最適なか細い線、日常感覚を忘れずにファンタジーを演出するストーリーなど、良いところはたくさんあります。その中でも、特にすごいと思うのが、心理描写です。
 内向エロス:陽気婢
これは少年です。文化祭で女装をすることになり、その時から自分の女装姿が忘れられなくなった少年なんです。鏡に映った自分の姿に向けて、問いかけているのです。「あたしのこと…好き?」という台詞が効いています。
これはもちろん、誰かに言うための練習ではありません。女装をしても男であることを否定できない現実の自分から、あたかも女の子にしか見えない鏡の自分に向かって呟かれた言葉なのです。派手なポージングするわけでも、おどけてみせるわけでもなく、ほんの少しだけ上目遣いに。ごく自然に。
 内向エロス:陽気婢
自慰中。自分で自分の陰部をしごきながら、顔はあくまでも鏡の自分に向かっています。「そんなにしたら…」という言葉は、男である自分自身の心の独白でありながら、鏡の向こうの少女に対して発せられた言葉でもあります。
彼は女装しながらも、自分自身が男性であり、性の対象が女性です。そうでなければ、鏡に向き合う必要がないのです。そして、鏡に映った姿は紛れもなく少女です。鏡の彼女は外見しか存在しないので、当然外見通りの女の子なのです。
鏡の自分と舌を合わせ、うつろにした目が、彼の心境を語っています。鏡を介することで初めて、男の自分と女装した結果としての少女を切り分け、欲情することができるのです。そして、自慰をすることによって、切り分けたはずの少年と少女が混ざり合っているのです。
たった十数枚のマンガに、これだけ細密に心理描写を書き込んでいるのです。同じ題材を描いた作品は当然ながら『内向エロス』以外にもあるのですが、これほど的確で緻密な心理描写をする作家を、俺は陽気婢先生以外に知りません。
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